自然な修復行動を促すためのデザイン
オランダ・アムステルダム
2026.07.03 Fri

誰もが自然とリペアを選択する社会は、どうすれば実現するのだろう。
コモンズ、利他主義、システム、アーキテクチャ……といったあらゆる角度からこの問いを掘り下げていく今回のリサーチにおいて、システムや体験設計の観点で先駆的な取り組みと変革を起こしているのが、オランダ・アムステルダムにあるユナイテッド・リペア・センター(URC)だろう。
2022年にAmsterdam Economic Boardとパタゴニアのパートナーシップにより設立された、欧州初の大規模な共同リペアセンターで、30以上の協業ブランドの服の修理を請け負うオンラインプラットフォームなどを提供している。このURCが提供するサービスの体験設計に、リペアを日本でも浸透させていくヒントが隠されているかもしれない。#1の記事で欧州のリペア事情について教えてくれた瀬沢正人さんと、「ロフトワーク」クリエイティブディレクターの永島啓太さんの二人を訊き手に、URCの創設メンバーの一人でありCOOのポール・ケルセンス氏に話を訊いた。
ポール・ケルセンス(Paul Kerssens)
ユナイテッド・リペア・センターの共同創設者兼最高執行責任者。10年以上にわたり社会貢献分野に携わっており、衣料品業界のシステムを再構築することを目指し、タミ・シュヴァイヒラーと協力しながら、人、地球、そして利益をビジネスの中心に据えるべく行動している。

Make Repair the New Cool 修理を新しいクールに
修理の体験設計が人の行動をどう変えるのかに私は関心があります。URCが提供する修理依頼ポータルは、各ファッションブランドに合わせて、担当する修理職人の紹介であったり修理の進捗まで、修理体験全体がデザインされています。このサービスを設計するうえで、特に意識されたことは何ですか?
衣服を修理するのは、ほんの30〜40年前までは当たり前のことでした。私自身、子どもの頃は膝をすりむいて破れたジーンズを自分で直したり、母が地元の修理屋に持っていって直してくれていましたが、過剰な消費主義が広がるにつれてこの感覚は失われ、街角にあったテイラーショップも次第に姿を消していきました。ですが、私たちがこの修理サービスを提供することを考え始めたとき、修理という行為はまだ社会の記憶の中に残っていると感じました。現代人は超高速で、ユーザーフレンドリーで、とても簡単なECの体験に慣れています。ですから、顧客のリペアジャーニーを設計するうえでの最大の動機は、ECの体験をある程度模倣し、それに匹敵する体験にすることでした。なぜなら、人々に新しいものを買う代わりに修理を選んでほしいと求めるなら、その体験が新品を買うのと同等か、あるいはそれ以上でなければならないからです。これが最初の意図でした。
依頼の受付はデジタルで、フリクションレス(摩擦のない体験)なものに。そして今日注文して当日あるいは翌日に届くのが当たり前な現代においては、修理にかかる期間も非常に重要です。私たちが調査したところ、衣服を修理に出した場合だと1〜2週間以内に手元に戻る必要があります。今一般的な修理店では、繁忙期には6〜8週間もかかってしまう。たとえば人々がスキー旅行の準備を始めるのは出発の2〜3週間前で、そのときにジャケットが壊れていることに気づいたとして、出発前に修理から戻ってこなければ、買い替えてしまうのです。そして、テイラー(修理職人)をこの体験の中心に据えているのも私たちのサービスにおける重要なポイントです。修理してくれる人の顔が見えてくることで、衣服や修理そのものに対する価値の感じ方が変わってくる。リペアとはクラフツマンシップ(職人技)であり、手仕事であるということを理解してもらうことで、ゆくゆくは人々のマインドセットや衣服への価値づけを変えていけるのではないでしょうか。
まだ修理を生活の一部として捉えていない人々に、どのようにリーチしているのでしょうか?
私たちのミッションであり出発点は、「アパレル産業自体を修理すること」です。そのためには、いかにスケールを達成し、業界を変え、消費者のマインドセットに影響を与えられるかが大事だと私たちは判断し、B2B2Cの事業にすることを決めました。私たちのようなスタートアップを認知してもらい、実際に利用されるには膨大なマーケティング力が必要です。しかもそれが、人々を説得してマインドセットを変えていく必要があるなら、なおさら難しい。ですがB2Bアプローチなら、いわば「巨人の肩の上に立つ」ことができます。大手ブランドのマーケティング力とオーディエンス(潜在顧客)を活用して、はるかに速くスケールとマインドセットの変化を生み出せると考えたのが最初です。そうしてブランドに対してサービスを提供し、ブランドがそのエンドカスタマーにリファービッシュメント(初期不良や故障などを理由に返品された商品を業者が修理・整備したうえで再販すること)、リペアやリセールといった幅広いリメイクの選択肢を提供できるようなテクノロジープラットフォームを構築することで、顧客の“リペアジャーニー”を支えているのです。
URCが事業として成長していくことは、壊れたらすぐ新品に買い替えるというマインドセットに形づくられた人々に変化を促して取り込んでいくことでもあると思います。そのハードルはどのように超えていったのでしょう?
鍵になるのはストーリーテリングの要素で、2つの重要なポイントがあります。1つ目は、「買わない(Less)」から「さらにクールに(Cool)」への転換です。これまでのサステナビリティやサーキュラリティの議論では、過去数十年にわたって「もっと買い控えよう、消費を減らそう、エネルギーを使うな」という、人々に楽しみを制限するよう求めるアプローチが主流でした。これは、人々が常に自分が何か間違ったことをしているように感じてしまうネガティブなメッセージであり、有効的なやり方ではないことが多くの研究で証明されています。「服を買うな、肉を食べるな、旅行するな」というメッセージの発信は、マインドセットを変える方法ではありません。パタゴニアは例外かもしれませんが。(2011年のブラックフライデーに合わせ、パタゴニアは「Don’t Buy This Jacket」と太字で書かれた新聞広告を掲載した)
そこで私たちは、人々のマインドセットを変えるなら、それをクール(かっこいい)にしなければならないと考えました。つまり最初の転換は、よりユニークになることを可能にすることです。要は1万着のうちの1着ではなく、世界に1つだけのユニークな1着に生まれ変わって戻ってくるのだと。ファッションは自己表現ですから、修理することでそれをさらに高められるなら、本当にクールになれる。そしてクールなことをすることで、結果的に環境にも貢献していることにつながるのです。それが私たちのスローガン「Make Repair the New Cool」(修理を新しいクールに)の由来です。

そのスローガンは素晴らしいですね!
2つ目は、リペアの背後にあるソーシャルストーリーを伝えることです。リペアによって実際に誰かを助けていることであったり、クラフツマンシップの再生・復活に貢献していることを示してあげるのも効果的です。URCでは、メールフローの中で誰が修理したかを見ることができるようにしています。そして実際に、修理品を受け取った後に依頼者からたくさんの感謝のメッセージが届きます。ただの修理サービスとしてではなく、「メスートさん、ありがとう」「マリアンヌさん、ありがとう」と名前を呼んで、リペアラーにお礼を言う。これは本当に素晴らしいことです。
URCでは難民や移民などの就労機会の少ない人々が多く働かれていて、就労プラットフォームとしての側面も持っていますよね。リペアを選択するユーザーを増やしていくために、特に効果があった仕掛けはどのようなものでしたか?
私たちの主要戦略は常にブランド側に参加を促し、製品を修理することにいかに納得してもらうかです。最初のクライアントにパタゴニアがなってくれたことは素晴らしいことでしたが、ある意味で“間違った成功例”でした。リペアがDNAに染み込んでいるパタゴニアにとって、特にビジネス上の価値提案を必要としていなかったのです。そして考えが甘かったのは、パタゴニアに追従したいブランドが多いだろうと思い込んでいたことです。そのおかげで参加ブランドを募ることに苦戦を強いられました。つまり私たちはリペアを売りにしていたものの、「ブランドにとっての価値創造」までは考えられていなかったのです。
それに気づいたことで、修理を提供し始めればポジティブなビジネスケースが成り立つことをブランドに示せるように、以下のようなフレームワークを構築しました。
1. 直接的なコスト削減 — 保証対応がこれまでは交換だったが、修理のほうが安く済み、さらに追加マージンも得られる
2. 追加の収益源 — 有料修理やリコマースは少なくとも損益分岐に持っていける。小規模ながらもサーキュラリティが事業として成立する
3. コンプライアンスコストへの対応 — 少なくともヨーロッパでは、今後の法規制に伴うコストがある。修理プログラムで収集されるデータは法規制への準拠にも使える
4. 製品改善へのフィードバック — 製品に関するデータポイントをすべて収集し、デザインチームにフィードバックすることで、将来の修理を未然に防げる可能性がある
5. 顧客生涯価値とNPSの向上 — 当初は仮説でしたが、今は証明できています。修理サービスを利用した人は、次に新しいアイテムが必要になったとき、そのブランドに戻ってくる。他のブランドには行かない。これは長期的な収益性と収益創出に直結する商業的メリットです
2022年の創業初年度はパタゴニア1社との取引で、修理件数はおそらく年間1000〜2000件程度でしたが、2025年には30ブランドと取引し、年間6万件の修理を行いました。
参加ブランドを増やした後に、URCとして取り組んでいることは何かあるのでしょうか?
次のステップとしては、リスクを最小限に抑えながらブランドの手を取り、修理プログラムのマーケティングを支援することです。小規模なパイロットから始め、消費者への直接的なリスクがないことを示し、徐々に拡大していく。ある程度の信頼が生まれたら、共同でマーケティングキャンペーンを企画し、新しい市場に展開していきます。最終段階として、ブランドと共に修理プログラムを消費者向けにアクティベーションします。店舗での修理ポップアップ、フェスティバルでのイベント、ワークショップなどを通じて、「修理という選択肢がある」ということを消費者に伝えていくのです。
消費主義の構造とリペアムーブメントへの回帰
非常に興味深いお話です。マーケティングキャンペーンやストーリーテリング、一部の人にはビジネス上のメリットを提案するという複合的な戦略だと理解しました。一方で、まだリーチできていない人々にも興味があります。URCのビジネスは、修理を選ぶ人の数に直結するわけですよね。まだ届いていない人々はどのようなタイプで、彼らを変えていくための戦略はありますか?
これはファッション市場のセグメンテーションの話になります。最初はアウトドアに強くフォーカスしました。アウトドアブランドとその顧客は、一般的に少し先進的な意識を持っています。自然の中に出かけ、アウトドアを楽しむために服を買うので、環境への影響に対する意識が高い傾向があります。また技術的なギアは価格帯も高いので、交換よりも修理する傾向が強い。アウトドアは比較的うまくいきました。いまでは多くのアウトドアブランドとその顧客を持っています。
次に取り組んでいるのがアスレジャー(Athleisure)です。まだスポーツ寄りですが、価格帯はやや低い。たとえばRaphaやLululemonなど。一定の高価格帯はありますが、明確に異なるオーディエンスです。その次はプレミアムファッションです。アウトドアとは関係ありませんが、「修理したほうが買い直すより経済的に賢い」と消費者が感じる価格帯のファッションです。ここはまだオープンな市場で、1〜2ブランドしかありませんが、アウトドアに比べて市場規模が大きく広がり始めるところです。
そして最終目標はマスマーケットです。もしファストファッションブランドを説得して修理サービスを提供させてスケーラブルにし、ビジネスケースとして成立することを示せたなら、それはアパレル産業のシステムそのものを変えるということを意味します。ただ、それはもう少し先の話です。低価格帯の製品なので、もっと効率的にならなければならず、効率を生み出すにはスケールが必要で、それによって修理がブランドにとってもアクセスしやすくなります。私たちは間接的にしかエンドユーザーにマーケティングしていないので、このセグメンテーションに基づいてブランドの選定を行っているのです。
先ほど30〜40年前は修理が当たり前だったが、大量生産システムなどによって変わったとおっしゃいました。しかしその変化が起こったのは、歴史的に見ればほんの短い期間です。人間は本質的に新しいものを欲するものなのか、それともリペアに関心を寄せるものなのか。この変化に影響を与えている要因は何だと思いますか?
難しい質問ですね。専門分野ではありませんが、直感的にこう考えています。消費主義がコントロールを失った根底には資本主義のシステムがありますが、マーケティングマシンを通じて、すべてのブランドが私たち生活者に「新しく買うこと」を絶えず突きつけています。ソーシャルメディアの台頭以降、アルゴリズムの力、そして今はAIの力が加わり、世界で最も賢い人々が「ソーシャルメディア上で人々に新しいものを買わせるにはどうすればいいか」に集中している。だからこれは必ずしも人々自身の選択ではなく、グローバルなマーケティングマシンの巨大な力と影響力が、「新しく買うことが自分の求めている満足だ」と人々に思い込ませているのです。新しいものを買ったときの一瞬のコルチゾール的な幸福感です。
社会のニッチなポケットでは、この30年間の行き過ぎた消費主義から距離を置こうとしている人々がいると思います。マーケティングマシンに影響されたくないという動機の人もいれば、サステナビリティや社会的影響についてより意識的になった人もいる。それぞれ理由はあるでしょうが、消費主義の負の影響に対する全体的な意識が高まり、リペアやセカンドハンドを選ぶ人が増えています。実際ヨーロッパでは、セカンドハンド(中古・リユース)市場の成長もこのトレンドを裏付けています。昨年、ヨーロッパにおけるピアツーピア(個人と個人)のセカンドハンドの主要プラットフォームであるVintedが、フランスで最大の小売業者になったことも象徴的です。
ただし、まだ本当にニッチなポケットであることに変わりありません。私たちが取引しているブランドは大手ブランドですが、まだマスマーケットではありません。たとえ2030年に年間100万件修理するという目標を掲げたとしても、ヨーロッパ全土の人口約3億5000万人が年に1着だけ修理するという未来を想像しても、100万件は大海の一滴です。ですが、まだニッチだからこそ、意識の向上と循環型システムのインフラ構築にはまだ多くの仕事が残っています。注文したその日のうちに商品が届くというような、新品を買うための既存のインフラは30〜40年かけて完璧に最適化されてきました。しかし修理や循環型システムのインフラはほぼ存在しません。新しい人材を育成しリバースロジスティクスを整備し、システムを構築し、工場を作らなければなりません。「新品を買う」レベルの完璧さに近づくには、業界全体の大変革が必要なのです。

リペア文化を根付かせていくために必要なこと
多くの課題がある一方で、業界内に変化も見えているとおっしゃいましたが、この変化を生んでいる最大の推進力は何だと思いますか?
リユースフェーズ(修理、リコマース、セカンドハンド)の市場成長には、主に以下の3つの推進力があると考えています。
1. 消費者意識の変化(パブリックオピニオン)
新品を買うことに代わる、より良い選択肢を求める人々のグループが成長しています。同時に、ウルトラファストファッションも成長しているので矛盾するトレンドではありますが、衣料においてもより持続可能な選択を求める市民の層は確実に拡大しています。セカンドハンド市場の成長、修理購入の増加、レンタルの成長など、定量的なトレンドが証明しています。そしてこれがブランドに対して、顧客への新たなサービスの仕方を考えさせる推進力にもなっています。
2. 供給と需要のマッチ(パブリックオピニオン)
以前は、こうしたサービスをブランドに提供しようとするイノベーターがいても、ブランド側の準備ができていなかった。あるいは逆に、パタゴニアのようなブランドがサービスを提供しようとしても、大規模に実行できるサービスプロバイダーがいなかった。供給と需要が出会わなければ、スケールは難しい。今はまさに、テクノロジーとオペレーションの組み合わせによってスケーラブルなレベルに達しうる私たちURCのようなイノベーターが存在し、需要もある(部分的にはパブリックオピニオンに後押しされて)。この2つが出会うことで、インフラとスケーラビリティを成長させる基盤ができています。
3. 法規制の追い風(パブリックオピニオン)
特にヨーロッパで、またカリフォルニアやオーストラリアでも動きがありますが、法規制は確実に強い追い風です。ヨーロッパでは今年、すでに施行されている拡大生産者責任(EPR)がさらに拡大されます。7月には売れ残り品の廃棄禁止が施行され、すべての商品は何らかの形で再利用(修理、クリーニング、リファービッシュ、アップサイクル)されなければなりません。
8月にはアパレルに対する修理する権利(Right to Repair)も施行されます。ブランドやリテーラーは、保証対応の第一選択として修理オプションを提供する義務を負い、保証外の有料修理もサービスとして提供しなければなりません。
さらに包括的に、EUのサーキュラーフレームワーク全体があり、これには透明性のためのデジタルプロダクトパスポート、サーキュラリティのためのデザイン原則などが含まれます。これらすべてが、ブランドが大胆な一歩を踏み出す強力な推進力となっています。
日本にはまだRight to Repair法制がありません。「もったいない」というモノを惜しむ文化的概念はありますが、現代のアパレルの消費においてはほぼ機能していないと言えるでしょう。URCの経験から、法規制の追い風がない市場で修理文化を根付かせるために最も大切なことは何だと思いますか?
先ほど議論した内容とも重なりますが、主に2つだと思います。まずは経済的な合理性です。市民がどれだけ「もったいない」と感じていても、経済的に成り立たなければなりません。修理価格は、ビジネスとして成立する水準であると同時に、顧客にとっても合理的な水準でなければならない。ということは、修理文化を立ち上げるには、まず高価格帯の製品から始める必要があるかもしれません。
もう1つは、人々が持つ感情的な愛着(エモーショナル・アタッチメント)です。これは「クールさ」にもつながります。人々はワードローブの特定のアイテムに愛着を持っている。それがお気に入りのジーンズであれ、いくつもの山を登ったハードシェルであれ、「ラッキーソックス」であれ。この感情的な要素に働きかけ、お気に入りのアイテムをもっと長く使い続けられるようにする、あるいは使い込んだ傷をクリエイティブリペアでさらにユニークにすることは確実に効果があります。
つまり、合理性は経済面にあり、感情は「クールさ」「評判」「アイデンティティ」にある。この2つの要素が合わさることで、少なくともアーリーアダプターを動かすことができる。アーリーアダプターがいれば、フォロワーが生まれ、新しいトレンドが確立されていきます。そして、リペアムーブメントを牽引する製品としてアパレルは最も適していると思います。電化製品の場合は経済的な合理性はありますが、それらの修理は「動くか動かないか」のどちらかです。直ったら元の機能に戻るだけで、そこに必ずしも感情的な結びつきはない。一方、アパレルは人々がアイデンティティの表現として着るものです。修理することでそのアイデンティティの表現に働きかけられれば、ムーブメントを本当に動かすことができると思います。
今おっしゃった2つのアプローチに関する具体的なエピソードはありますか?
私たちのオフィスでは「Wall of Fame(名声の壁。日本でいうお客様の声)」として、依頼者から送られてきた感謝の手紙やメッセージをすべて飾っています。中には修理されたアイテムと自撮りした写真を手紙に同封して送ってくれる方までいるくらいです。また、私たちは店舗やイベントでの修理ポップアップも行っています。昨年、イギリスのアウトドアイベントでライブリペアをしていたときのことです。元プロ登山家で、ヒマラヤの登山ガイドもしていた男性がやってきました。最初は何も持たずに来て、修理という選択肢があることを知らなかったようなのですが、私たちのストーリーを聞いて非常に興奮し、翌日5着も持参されたのです。すべて登山用ウェアで、壊れてしまったけれど、プロとしてのキャリアの思い出がたくさん詰まっていて手放せなかったと。私たちが修理したウェアを着てヒマラヤにもう一度登るかどうかはわかりませんが、少なくともまた着ることができ、その思い出を持ち続けることができます。
非常によくわかります。私自身スノーボードを楽しんでいて、毎年ボードのチューニングや道具のリペアに200〜300ドルかけています。アウトドアが好きな人はより多く修理する傾向がある、というのは私も同感です。一方で、ゴールドウインはファッション企業でもあり、顧客は必ずしもアウトドア愛好家だけではなく、幅広い衣料を提供しています。最終的にはアウトドアが好きではない人や高価な製品を買わない人にもリーチしていくためには、どうしたらいいのでしょう。
修理という行為が愛着やサステナビリティのモチベーションにつながらない場合、最終的にはすべてが経済的なトレードオフに帰結します。そして衣服の価格帯次第ということになるでしょう。私たちが見ている範囲では、修理代が衣服の価格のおよそ25〜40%の範囲で、かつまだ比較的新しいものであれば、人々はリペアを選びます。そう考えると、20ドルで買ったTシャツを、送料や手数料込みで10ドル以下で修理するのはかなり難しいと言えますね。

リサーチメモ
・新しいものを買う代わりに修理を選んでほしいと求めるなら、その体験が新品を買うのと同等か、あるいはそれ以上でなければならない。
・衣服を修理に出す場合、手元に戻るまでの期間が1〜2週間以内であれば買い替えではなく修理を選択する確率が上がる。
・修理することでオンリーワンの1着に生まれ変わるという体験が、リペアを積極的に選ぶ理由になる。
・誰が直してくれたのか、リペアラーの顔が見えることで「自分のモノの修理に他者が関わっている」実感が生まれ、衣服と修理への価値づけが変化する。
・人々がリペアを選択するには、合理性(経済面)と感情(「クールさ」「評判」「アイデンティティ」)の両輪が必要になる。
・修理代が衣服の価格のおよそ25〜40%の範囲で、かつまだ比較的新しいものであれば、人々はリペアを選択する。
お話を聞いた人

United Repair Centre
Paul Kerssens
ポール・ケルセンス。ユナイテッド・リペア・センターの共同創設者兼最高執行責任者。10年以上にわたり社会貢献分野に携わっており、衣料品業界のシステムを再構築することを目指し、タミ・シュヴァイヒラーと協力しながら、人、地球、そして利益をビジネスの中心に据えるべく行動している。
この記事の著者

編集者/ライター
奥田祐也
1987年福岡県生まれ。出版社でカルチャー誌の編集・広告企画に携わり、2023年から北海道移住に伴いフリーランスに。趣味のアウトドアと旅の経験を活かして全国各地でジャンルレスに取材から撮影までを行う。現在は旭川近郊で古民家を自分の手でリノベーションしながら、東京と北海道の自然を行き来する暮らしをしている。



