Goldwin Field Research Lab.では、「災害とアウトドア」をテーマに、約1年間にわたり様々な立場の方々への取材や現地フィールドワークを通した多角的なリサーチを行ってきました。
その中で、災害時にその性能を最大限発揮するアウトドアウェアを製造するGoldwinがアウトドア企業としての知見とプロダクトを活かし、社会にどのような貢献ができるかを模索してきました。ここでは、これまでのリサーチを振り返りながら、そこから見えてきた課題や可能性、そして今後の方針についてお伝えします。
アウトドア製品の役割と課題
災害時の避難生活では、快適性や実用性を兼ね備えたアウトドア製品が大きな役割を果たすことが改めて確認されました。例えば登山用ウエアや寝袋は高い防寒性と透湿性を備えており、必要な衣服も少なく、温度管理も徹底できない避難所での体温調節に大きく貢献します。また軽さやコンパクトさを追求した携帯性に優れたギア類は、限られたスペースでの生活を支える道具として重宝されています。
一方で、道路状況が悪化し移動が難しい災害時おいて、こうした製品をどのように被災地に届け、各避難所をはじめ困っている人に渡すことができるのかという問題は、被災状況がその時々違うなか簡単にクリアできるものではありません。
またこれまでアウトドアギアに触れたことがない方々が受け取った際、どのように活用していいかが分からないという点では課題も浮かび上がりました。リサーチでは、物資の提供が被災者に感謝される一方で、「寝袋で寝たことがないので抵抗がある」「使い方が分からない」といった声も寄せられています。
これらのことから、平時からのアウトドア経験やアウトドア知識のインプットが、今後の重要なテーマとなると考えました。
また、災害支援の現場では専門的な知識や技術を持つ人々の存在が、復興のスピードに大きく影響を与えています。特に医療や救助活動に携わる支援のプロフェッショナルが、適切な装備を身に着けて効率的に行動することは、限られた資源や時間を最大限に活用するために不可欠です。たとえば、防寒性や透湿性に優れたウェアや携帯性の高いギアは、長時間にわたる活動を支えるだけでなく、現場での快適性や安全性を確保する役割を果たします。
Goldwinが長年培ってきたアウトドア技術が、こうした支援のプロフェッショナルたちへの提供を通じて、防災や復興といった新たな分野でも大きな価値を発揮できることが明らかになりました。たとえば、極限環境での使用を前提に開発された登山用ウェアの機能性は、過酷な状況下で活動する災害対応チームにも適しています。この応用は、アウトドア製品の社会的意義を再定義する機会ともなり、支援の質や範囲をさらに広げる可能性を示しています。
被災地支援における新たな発見
ゴールドウイン社員を対象に実施した意識調査では、多くの社員が災害ボランティア活動に対して高い関心を示し、「積極的に参加したい」という意欲的な声が多数寄せられました。しかし同時に、「日常業務や家庭の事情から時間の確保が難しい」といった現実的な課題が浮き彫りになりました。特に平日の日中にボランティアとして活動することへのハードルが高く、結果として土日祝や長期休暇を中心とした参加が主流になりがちです。
一方で、被災地の現場からは、「平日の日中は特に人手不足が深刻であり、ボランティア活動が思うように進まない」という切実な声が寄せられました。特に災害直後の初動対応や継続的な復興活動においては、平日こそ人手が求められる場面が多く、このタイミングでの労働力不足が支援活動全体の効率を低下させてしまう一因となっています。
このように、社員の意欲と被災地のニーズの間に存在するミスマッチをどのように解消するかは、企業として社会的責任を果たすための重要な課題です。この調査結果は、ゴールドウインにとって新たな視点を提供するとともに、災害支援における企業の役割や取り組みのあり方を再考する契機となりました。
Goldwin Field Research Lab.が見出した4つの方針
1. 従来の支援のアップデートと継続
これまで行ってきた日本赤十字への義援金提供や衣類寄付を継続しながら、継続的な寄付先の見直し、連携すべき組織の調査、衣類等の事前備蓄を進めます。
具体的には、ファミリーセール後にサイズ別に仕分けした備蓄品を整備する仕組みをスタートしました。11月の富山ファミリーセール後には、女性用肌着213枚を備蓄しました。また、フィールドワークの際に声が上がった「こんな時だからこそ素敵な服が着たい」という被災者の想いの応えられるように、品質や機能だけでなくデザインの面からも被災者の心に寄り添ったアイテムの選択を行っていきます。
2. 支援のプロフェッショナル達への衣類提供
Goldwinがこれまでトップアスリートを支援してきた姿勢を災害支援に適用し、災害現場で活動する支援のプロフェッショナルを質の高い衣類でサポートしていきます。
災害時の医療や福祉などを支えるDHEATやDMATなどの支援チームや、ボランティアの受け入れを行う団体、また包括連携協定を結び災害時に協力体制をつくる富山県との連携を深めながら、防災服や作業時のウエア制作も計画しています。
3. 社員のボランティア活動支援
社員向け意識調査によりGoldwin社員の多くがボランティア活動への強い意欲を示していることを受け、「ボランティア有給制度」の導入を進めています。この制度は2025年4月の施行を目指しており、平日に不足しがちなボランティア人員の確保に貢献することを期待しています。
また2024年11月7日には本リサーチ結果を社員に向けて発表する場を設け、災害時支援に対する関心と意欲をさらに促進しました。今後はこのような場を社内だけでなく、社外に向けても設けていきます。
4. 平時からのスキルシェア活動
災害時に有用なアウトドアスキルを共有するため、平時からのワークショップ開催を拡大します。初の試みとして2024年10月26日〜27日には「もしもFES大阪」にてワークショップを実施しました。今後は包括連携協定を結ぶ自治体を中心に活動を広げ、地域住民とともに経験と知識、技術を共有する場を提供していきます。
Goldwin Field Research Labでは、これからもフィールドに出向いて現場の声に耳を傾けながら、アウトドア企業としての新しい可能性を追求していきます。被災地支援だけでなく、平時から地域社会と連携した活動を通じ、持続可能な未来への一歩を共に築いていきたいと考えています。
この記事の著者
Goldwin Inc.
神田容佐
ウェブマガジンの編集/ライターを経て2017年入社。総合企画本部マーケティング部所属。DJ/音楽プロデューサーとしても15年以上のキャリアを持つ。