Research Thema
Disaster and Outdoor Activities
「もしも」を遊びながら考える——アウトドアの視点で学ぶ、新しい防災のかたち
「備える」。その言葉に、どこか非日常的で遠いイメージを持つ人は少なくないかもしれません。防災グッズを用意したり、避難経路を確認したり。もちろん、それらはとても大切な備えです。
でも、災害はいつも“想定内”で起きるわけではありません。自宅や職場ではなく、移動中や外出先で突然直面するかもしれない。そんなとき、最後に頼れるのは、その場に「あるモノ」と「いるヒト」、そして自分の知恵や工夫かもしれません。
Goldwin Field Research Lab.(FRL)は、その“もしも”に対する備えを、アウトドアの視点から遊びを通して考えてみるワークショップを、2024年10月26日〜27日にグランフロント大阪・うめきた広場、2025年4月5日〜6日に名古屋 Hisaya-odori Parkで開催された「もしもFES」にて、実施しました。
この記事では、その様子をレポートしていきます。
もしもFES
「もしも」は「いつか」必ず起こるもの。もしもプロジェクトはみんなで「もしも」を考え、「備え」を実行していくためのプロジェクトです。
名古屋の会場では、キャンプ・アウトドア情報メディア「ハピキャン」とのコラボレーション企画も実施。ハピキャンが用意したクイズ形式の「防災模試」では、キャンプ道具がもしもの時にどう役立つかを楽しみながら学べるコンテンツや、解答用紙を使ってペーパークラフトが作れるミニワークショップをFRLブースで開催しました。
モノの使い方をちょっとずらして考えてみる。そんなハピキャンの取り組みと、実際にギアに触れて遊ぶFRLのワークショップが合わさることで、会場全体が「楽しく学べる防災の場」になっていました。


アウトドアスキル=防災スキル?
今回のワークショップ『「もしも」をサバイブするアウトドアスキルって?』でナビゲーターを務めたのは、アウトドアプロデューサーの長谷部雅一さん。自然体験を通じて、親子や子どもたちの学びと成長をサポートしてきたスペシャリストです。

長谷部雅一/アウトドアプロデューサー
アウトドアイベントの企画運営から登山ガイド、幼児教育のコンサルタントまで幅広く活動。自然体験を通じて親子や子どもの成長を支援し、保育士向けの研修やアウトドアワークショップを多数実施。世界中の山やトレイルを旅する冒険家としての顔も持つ。
手を動かしながら、想像する——
今回のワークショップのテーマは、「アウトドアギアを、もしもの場面でどう使うかを考えてみよう」というもの。登山やキャンプで使うギアを、その本来の使い方に縛られず、「転用する」「工夫する」「応用する」アイデアを、遊びながら探っていきます。

会場には、普段のアウトドアでもよく目にするようなシェラカップやナルゲンボトル、ロープ、マットレスなどのアウトドアギア。参加者は子どもから大人まで、自由にギアに触れ、組み合わせ、工夫しながら「もしも」の状況にチャレンジします。



たとえば、寝袋のインナーシーツを使って重いモノを運ぶための即席のバッグにしてみたり、複数のギアを組み合わせて寒さを防ぐためのアイデアを即興してみたり。ロープワークでは、実践的な結び方を遊びながら学ぶミニゲームも用意され、参加者からは笑顔と驚きの声が絶えませんでした。
「これって、○○にも使えそう!」
「こういう風に使ったら壊れちゃう? でも試してみよう!」
「こうやって使うものだと思い込んでた!」
そんな声が自然と飛び交う空間。手を動かしながら想像することで、頭の中での「もしも」が少しずつ「自分ごと」へと近づいていくのが感じられました。



今回、印象的だったのは、3歳から13歳までの子どもから大人たちまで、参加者の皆さんがとにかく「楽しそう」だったことです。
「他の防災フェアにも参加したことはありますが、こうした実践的なワークショップは初めてで新鮮でした。子どももとても楽しんでいて、スタッフの皆さんにもたくさんサポートいただき、参加できて本当によかったです。また機会があればぜひ参加したいです」
「実際にギアを使ってみることで、普段の使い道を見直すきっかけになりました。いざという時にも使えると思いました。ギアを積んで高さを競ったり、ロープの結び方を遊びを通して学べたのが良かったです」
というように、体験後には多くのポジティブなフィードバックが寄せられました。
遊びながら手を動かし、想像する。その中にこそ、記憶に残る「備えの種」がある——私たちは、今回のワークショップを通じてそのことを再確認することができました。


アウトドアの知恵が、日常と「もしも」をつなぐ
山を登ること。野で遊ぶこと。
それは、イレギュラーな環境に対処し続けることでもあります。
今回のワークショップは、そんなアウトドアでの経験や知恵が、防災や日常の暮らしとも自然につながっていることを、あらためて考える場となりました。
“もしも”に備えることは、決して特別なことではありません。日々の遊びや暮らしの中にある、小さな工夫や柔軟な発想こそが、いざという時に自分や誰かを助ける力になる。
アウトドアが持つ知恵や感性は、自然の中だけでなく、都市や日常の中にも活かすことができるはず。
FRLはこれからも、そうした視点から問いを投げかけ、実践を重ねていきます。
この記事の著者

Goldwin Inc.
上沢勇人
2019年入社。THE NORTH FACE STANDARDのショップスタッフを経て、2023年よりマーケティング部所属。趣味はロングトレイルやバックパッキング。ここ2年ほどはトレイルランにハマり100mileの完走を目指してトレーニング中。
アドバイザー

アウトドアプロデューサー
長谷部雅一
アウトドアイベントの企画運営から登山ガイド、幼児教育のコンサルタントまで幅広く活動。自然体験を通じて親子や子どもの成長を支援し、保育士向けの研修やアウトドアワークショップを多数実施。世界中の山やトレイルを旅する冒険家としての顔も持つ。