あの人は子どもの頃、どんな遊びをし、どんなことを信じていたのだろうか。
子どもは遊びを通して世界と関わり、遊びを通して自分をかたちづくっていきます。あの人はどんな遊びをしてきたのか。そしてそれはいまのその人にどんな影響を与えているのでしょうか。
ポリバレントなファーストサマーウイカはどんな子どもだったのか。

ファーストサマーウイカの肩書きをひとつに絞ることは難しい。自身このインタビューの中でサッカーにおけるユーティリティプレイヤーを表す「ポリバレント」がしっくりくると答えている。群れず、離れず、媚びず、冷めず、積極的でも消極的でもない、中心にはいないけど、いつもどこかにいる。彼女のいまの活躍の背景には、子ども時代の遊び方、人との付き合い方がしっかり存在していた。
ファーストサマーウイカ
1990年生まれ、大阪府出身。2013年5月にアイドルグループ・BiSに加入しメジャーデビュー。翌年7月に解散した後、音楽ユニット・BILLIE IDLEを結成した。2021年に配信シングル「カメレオン」でソロメジャーデビューを果たす傍ら、バラエティやドラマにラジオと多方面で活躍中。2024年放送のNHK大河ドラマ『光る君へ』では清少納言(ききょう)役を熱演した。さらには2025年4月25日に公開する映画「花まんま」へ出演するなど、活躍の幅を広げている。
友だちは少なくてもゲームがあれば
子どもの頃の遊びといえばどんなことを思い出しますか?
母親がゲーマーでファミコン、スーファミからプレイステーション 、Nintendo64、ゲームキューブぐらいまで、家庭用ゲーム機全般で遊んでいたんです。それをそばで見たり、一緒にやったりして、だんだん自分もゲーマーになり遊びがインドア化していきました。
どんなゲームをやってきました?
人生いちの作品は「クロノ・トリガー」です。あれは傑作。自分の人生にかなり影響を与えていて、高校時代に「クロノ・トリガー」きっかけでタイムマシンの論文まで書きましたから。受験の時でも、このゲームをやるために勉強を頑張る!というのも多かったですね。
友だちとゲームを一緒にやったりはしなかったんですか?
ゲームはRPGが多かったので、基本は1P、一人でやるタイプでした。たまに弟と対戦ゲームをするとか、あとは親のプレーを見るかでしたね。見ていた分、自分でやってはいないけど、ほぼプレーしているに等しいゲームがたくさんあります。だから学校に行ってる間に母親が進めたストーリーはいまだに知りません(笑)あ、いま不意に小学校の友だちのみゆきちゃんと「木更津キャッツアイ」ごっこをやった記憶を思い出しました。
二人の「木更津キャッツアイ」では登場人物が足りなそうな。
そうなんですよ。クドカン作品で盛り上がれる話の合う子も少なかったというか、そもそも友だちが少なかったんですけど、家に帰ってゲームすればよかったこともあって別にいなくてもという感じでした。
えー、友だちが少なかったんですね。
孤独を愛してたのかな(笑)

「別に興味ないし」って突っぱねていたわけでもなく、積極性を持たなければどこからも別に誘いがないだけという(笑)。
自分のペースで生きている
小学生は何人かでグループになりがちですよね。
何人かでいることもあれば、いない時もあって、呼ばれる時もあれば、呼ばれない時もある。自分から行く時もふらっといない時もあったりしました。どのグループにも同じだけの割合で顔出すキャラでした。
まるでユーティリティープレイヤー。今の働き方みたいですね。
相関図とかの端っこで笑ってる人タイプ。大河ドラマで演じた清少納言もそうで、どこかに属していないのにみんな友だちなんだけど、どこの中心でもない。最近覚えた言葉では「ポリバレント」。サッカー用語で複数のポジションをこなすことができる選手のことで、全部制覇してるオールマイティとかオールラウンダーだと違う感じがしていたんですけど、「ポリバレントいいじゃん」て。
人によってはどこにも属さないことがちょっと不安だったりすることもあると思うんですけど。
ニコイチとかズッ友みたいなのに憧れがなかったわけじゃないんですよ。でもみんなでお揃いの物を持つみたいなグループに属したことは 本当に1度もありませんでした。でも「別に興味ないし」って突っぱねていたわけでもなく、積極性を持たなければどこからも別に誘いがないだけという(笑)。言葉にすると虚しいですけど、別に待ち望んでるわけでもないんですよ。寂しいとか孤立してるとかより、「特別なのかも」「ちょっと変わってるよね」って思われることへの意識があったのかもしれません。
独自の立ち位置を持ってると思われるよろこび。
でもその立ち位置になりたくてあえてやってる感じでもなくて、休み時間に誰かが面白そうな話をしてたらわあって喋ったり、ドッチボールもしました。その時やりたかったら入っていって、そうじゃない時は、「今日の私は音楽室でちょっとピアノを弾いてみたい」とか。ピアノは弾けないのに(笑)
弾けないんだ(笑)
好きなユニコーンの曲をなぜか単音で。こっそりそれを誰かが見てくれて「不思議な人」って思われたらそれはそれで最高だし、別に誰も見てなかったら私はそのままでも楽しい。変わった人を演出しているわけでもないけど、全く自分の世界に没頭してるかと言ったら、そうでもない。

一人で没頭して、自分が行きたい時に行けて、やめたい時にやめられる。自分に主導権があるのが好き
チーム、仲間からはじまる関係がちょうどいい
どこにも属さないことが徹底されている。居心地が悪いことはなかったんですね。
ずっとそんな感じだったので、そういう気持ちはなかったですね。小4で転校したとき、軽いいじめやいじりがあって悲しかったりしたけど、一人でも遊べるし、そこまで悲観もしなかったので気がつけばぬるっと終わっていったんです。
その渦中、クラスで定位置みたいな居場所が見当たらなかったから、さっきのポリバレントな立ち位置といういうか、生き方を見つけていった感じもありますね。先生に叱られるようなイタズラとかも単独でやってました、校庭の隅になってたアケビをこっそり食べたりとか。
そういう時も誰かと一緒にやろうとならないのが、らしい感じがしますね。
一人が好き、というより「一人が標準」なのは今も変わらないですね、協力プレイの無い1Pが基本だった平成のRPGの考え方。他者への固執とか集団への執着もほぼ無い。
でも思い返せば、ミニバス、吹奏楽部、軽音楽部、劇団、アイドル、ガールズユニットと、今に至るまでずっと何かしら集団に属しているんですよ。吹奏楽はミニバスで一緒だった友だちのむーちゃんに誘われて何となく入ったんですが、それ以降は自分の意思だから、仲間と共に何かするというのは好きなんだと思います。
今でも連絡を取る友人はこの中のメンバーが多いですが、当時は友だちというよりチームメイト、同志で、一緒に旅に出てボスを倒すために集まった仲間、みたいな感覚でしたね。だから当時はプライベートではあまり会わなかったけど、それぞれ終わってからの方が定期的に集まってますね。ちなみにむーちゃんは「アナザースカイ」で地元に帰った時にも出演してくれた今でも貴重な友人です。
芸能の世界に似ている気がしますね。普段友だちかどうかは関係なく仕事の現場に集まるチームとして動き、目的を達成して解散する。
たしかに。だから性に合っているのかもしれない。遊びをするために声をかけて友だちになるのか、友だちができてから遊ぶという目的ができるのか、友という存在に関して何度も考えを巡らしたことはありますね。友だちと仲間の違い、親友とはなにか、とか(笑)
仲間とは呼べる存在はわかるけれども。
芸能界デビューしてからの友人も99%仕事で出会って育まれたもの。でもやっぱり頻繁に連絡を取るとかでもなく広く浅い。気兼ねなく「今何してる〜?」と連絡できるような人は少ない。今も趣味の欄は一人遊びのクレーンゲーム。一人で没頭して、自分が行きたい時に行けて、やめたい時にやめられる。自分に主導権があるのが好きなんです。

ジョブチェンジを繰り返して成長する
2024年に出られた「徹子の部屋」で話していた、小さい頃から演じることが好きだったというのは、遊びの感覚の延長線上にあるものですか?
記憶はないんですが、幼稚園でお遊戯会があって、私を含めた3、4人がお姫さま役を演じました。並んでセリフを言うシーンがあったんですけど、ひとりだけズズズっと前に出ていって「ここは私のシーンです」みたいな厚かましさでセリフを言ったそうです。よく言えば舞台度胸がある。小学生の発表会でも、誰にも求められていないのにシンデレラの脚本を現代風にアレンジして、勝手にキャスティングまでして、自分で一番美味しいママ役をもらったりしていました。あと、転校前も後もSPEEDとかコピーするダンスユニットも組んでいましたね。
どこに属するわけでもなく中心で目立つタイプでもないのに、急に脚本を書いて目立つ役を演じたがるとなるとクラスの状況的には混乱ですよね。
出し物の時だけ張り切る女子、文化祭張り切り女って当時から言ってました(笑)しかも裏方も全部やるポリバレントなタイプ。はたから見たら謎ですね。

あらゆるポジションで動く人っぷりを発揮していますね。
やっぱり私はゲーム脳なんですよ。ベースの考え方は「ファイナルファンタジーⅤ」で、あのゲームはジョブ(職業)とアビリティ(能力)という画期的なシステムが採用されていたんです。あるジョブでレベルアップするとアビリティを獲得できて、他のジョブにチェンジした時にそのアビリティを装備することができる。
私は飽き性なのもあって、ひとつのジョブをレベルMAXまで鍛えるんじゃなくて、ドラマもバラエティも全部満遍なく出させてもらって、いろいろなジョブのレベルを少しずつ上げてきました。役者一本に絞るという考えには至らないのは、今は黒魔道士にハマってるけど、次は格闘家でバチバチに肉弾戦をして、そのうち人を助ける白魔導士になりたいという時が来るかもしれないから。ポリバレントとして、子どもの頃から同じ生き方のまま大人になってる感じがします。だから、マクロで見た時には全然ブレてないんだけど、ミクロで見るともうぶれまくってる(笑)

生地を重ねて縫っている布の角がめっちゃ好きなんです
角を愛する
自分だけのおまじないやジンクス、こだわりとかありました?
五芒星ペンダントをしながら呪文を唱えて妖怪退治をする「木曜の怪談 ゴーストハンター早紀」というドラマにハマっていました。ハマった結果、家の中でものがなくなった時、母親に作ってもらった五芒星のペンダントをしながら呪文を唱えて探すようになりました。小学生時代、友だちと100円を持って駄菓子屋さんに行こうとして友達が100円を落としちゃったことがあって、「ちょっと待って! あー、念を感じる。こっちにある気がする!」って探したら見つかったんですよ。それ以来、今でも失くしものをした時、なんとなく無意識にそれをやっています(笑)
そんな特殊能力が! ちなみにぬいぐるみとか手放せない相棒のような存在はいました?
相棒とは違いますが、パンツのポケットのような生地を重ねて縫っている布の角がめっちゃ好きなんです。少し硬さのある角で指で刺激すると落ち着く。寝る時によく触っていて、無印良品の羽枕の角がこれまでで最高の角です。普通は枕カバーを使うのでみなさんは存在を意識しないし、そもそも角を触らないから知らないと思いますけど(笑) その羽枕は首が合わなくなって使わなくなってしまったので、角だけがほしい。四隅を切って売ってほしい。
無限プチプチのように本来予定していない機能だけ取り出してる(笑)
痛まない、すり減らない、へこたれない角。単語帳とか指輪のサイズを測る道具みたいに、いろんな角がまとまっているやつがほしい。実はテレビに出始めた頃は、趣味・特技の欄に「角を触ること」と書いていたんですけど、意味わかんなすぎて一度も採用されず(笑)。

何か好きなものを集めたりはしていました?
あぁ、それは四つぐらいあります! まずは「 BB弾」。うちの近所に大量に落ちていて、いろいろな色の中で蛍光の透明イエローで気泡が入っているやつを見つけたら、「当たり!」とかいいながら集めて家の瓶の中に貯めていました。二つ目は夏限定でセミの抜け殻。三つ目はシーグラス。海辺で見つけるガラスのかけらですね。コロナ前に家族でタイ旅行に行った時も、タイの海でみんなが泳いでる中、私だけシーグラスを拾っていました。
最後の四つ目は、某衣料品店の畳んだ服が崩れないように留めておくためのプラスチック。お客さんが手に取った時に外れるのか、床に結構落ちていて、親が買い物をしている間に拾って大量に集めていました。 持って帰ったり、集めるだけ集めて置いて帰ったり。集めていたものの共通項があるとするとスケルトン、半透明ということなんじゃないかと結論が出ました。でも、なぜスケルトンなのか…。
とにかく集める作業自体が好きだったんです。だから集めてくるけど、改めてそれを眺めたりすることもない。集めたものを使ったのは、夏休みの宿題で貯金箱を作ることになり、紙粘土にシーグラスを埋めたことくらい。だから宝探し、それ自体が目的なんですよね。見つける一瞬のアドレナリンのための。
母のゲーマー気質が私の潜在的なもの、好きなものと結びついて、その後選ぶものごとにも繋がっている
ひとりで遊んできたからこそ
2019年からテレビに出させてもらうようになって、本格的にタレント的な活動が始まりそうな時にコロナ禍になってしまってスケジュールがスコンと空いたんです。その時、「龍が如く」というゲームにハマって。そのことをとある番組で話したらセガさんに伝わり、ゲームに出演させてもらうところまで行き着いた。小学生の頃の将来の夢が「ゲームの声優」だったので、巡り巡って夢が叶ったんです。
成功したオタクに…!
当時流行っていた「どうぶつの森」をやっていたら、そんな展開は待ってなかったわけで。一人でできるゲームを選んでいたからこそ。
一人遊びがベースにあったからこそ出会い、そしてそれを仕事まで繋いだっていうのはその性格があったればこそですね。
ごっこ遊びもゲーム遊びもどっちにしろ芝居に繋がるという。人形を持っていても、そのうち人形じゃなくて人間本体でやり出してましたしね。きっとそういうのが続いていて、ガラッと変わっちゃいないですね。だから幼少期に何を与えるかは大事なんだなと、話をしていて思いました。母のゲーマー気質が私の潜在的なもの、好きなものと結びついて、その後選ぶものごとにも繋がっている。常に、新しいゲームを新しい仲間と冒険にするような、俳優という職業、芸能界という場所があって本当に良かった。クリアは簡単じゃ無いですけど、やり甲斐に溢れてますから。

この記事の著者

good and son
山口博之
FRLエディトリアルディレクター/ブックディレクター/編集者
1981年仙台市生まれ。立教大学文学部卒業後、旅の本屋BOOK246、選書集団BACHを経て、17年にgood and sonを設立。オフィスやショップから、レストラン、病院、個人邸まで様々な場のブックディレクションを手掛けている。出版プロジェクトWORDSWORTHを立ち上げ、折坂悠太(歌)詞集『あなたは私と話した事があるだろうか』を刊行。猫を飼っているが猫アレルギー。
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