Disaster and Outdoor Activities

ゴールドウインと災害

日本・東京/富山

2024.08.25 Sun

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Disaster and Outdoor Activities

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ゴールドウインとしての災害支援の可能性を問い直す

自然災害に頻繁に見舞われる日本では、気候危機や環境課題に関連して災害リスクがさらに高まる可能性が懸念されています。そのような状況の中で、自然や環境をフィールドとする企業であるゴールドウインが果たせる役割とは何でしょうか。また、そこで働く私たちはどのように貢献できるのでしょうか。

本記事では、ゴールドウインがこれまでに築いてきた防災体制や支援活動の具体的な事例を紹介しつつ、社員アンケートをもとにアウトドアウェア・ギアを取り扱う企業としての特性を、災害支援に対してどのように活かせるのかを探っていきます。

ゴールドウインの防災体制と主な災害支援事例

現状の防災体制は2011年以後に定められました。

防災備蓄などの一般的な備えをしていたものの、2011年の東日本大震災が大きな節目となり、緊急時における事業継続のためのプランとマネジメントを定めたBCP(Business  Continuity Plan)と、BCM(Business Continuity Management)の見直しを行いました。

危機管理本部を設置し、防災教育、BCP訓練などの平時のリスクマネジメントや、緊急時行動手順書や安否確認ツールを導入するなど、発災後のプランまで策定することで社内への啓蒙、レジリエンスの強化を図っています。

災害発生時、まずは自分たちの安全確保が第一となるため、社員を守る組織体制や事業継続のためリスクマネジメントが、細部まで決められています。

一方で、義援金の寄付や物品の提供などを行ってきた、被災地への支援活動はどうだったかを振り返ります。

これらの支援活動は、危機管理本部を中心として、災害ごとに被害規模や状況によって検討、実施されます。しかし、支援活動のプロセス全体を社内で公式には記録されておらず、災害ごとの判断基準や支援後のフィードバックも十分に蓄積されていませんでした。

2019年に経団連が行った調査(下記リンクの6ページを参照)では、多くの企業が「支援に関する基本方針の策定」や「被災地・被災者ニーズの把握」に課題を抱えていることが明らかになっており、支援活動の難しさが浮き彫りになっています。今後は、実施した支援とその結果を見直すフィードバックループを形成し、経験と知見を体系的に蓄積することが、持続的かつ企業の特性を活かした効果的な災害支援へとつながる鍵となるはずです。

社員の災害支援活動への関心と実態

やりたいけれど、できていないボランティア活動

「災害とアウトドア」のリサーチは、まずは社員の災害支援や防災に対する関心と行動についてのアンケートから始めました。

アンケートには総勢370名の社員が回答し、その結果、93%の社員が、ボランティア活動や企業による被災地支援に対して高い関心を持っていることが明らかになりました。

しかし、個人の支援活動にフォーカスすると、理想と現実にギャップがあることがわかります。支援活動に意欲的な社員のうち、42%が復旧活動や炊き出しなど現地でのボランティアに関心を寄せていますが、実際に参加したことのある割合は12%に留まっています。参加の妨げになっている要因として、仕事や家庭の事情による時間的な制約、そして金銭的な課題が多く挙げられていました。

内閣府が実施した「市民の社会貢献に関する実態調査」によると、おおむね年齢が高くなるほどボランティアに参加する割合が高くなっています。また、ボランティア活動への参加の妨げとなる要因として、「参加する時間がない」「参加するための休暇が取りにくい」など、時間に関連する課題が多く挙げれらています。ゴールドウインの社員に限らず、働きながらボランティア活動に参加する時間を見つけるのは難しいことが考えられます。

個人が間接的にでも貢献できる企業としての支援のあり方や、意欲的な社員が時間を確保し積極的に参加できるような、ボランティア有給休暇制度の導入などが、今後の課題として検討されるべきでしょう。

被災地への想いと個人的な支援活動の難しさ

被災地への想いを持ちながらも支援活動に参加できずにいる、ヘリーハンセン MARK IS みなとみらい店の佐藤実咲さんに話を伺いました。

佐藤実咲さん/ヘリーハンセン MARK IS みなとみらい店
大勢の方と丘の上にある中学校まで必死に走ったことを覚えています

「2011年の東日本大震災の時、津波被害が大きかった大船渡市で、当時、小学5年生だった私は、通っていた小学校で被災しました。その小学校は避難先に指定されており、その後、家族も避難してきましたが、父が迫り来る津波に気づいたことで、そこからさらに、大勢の方と丘の上にある中学校まで必死に走ったことを覚えています。町ごと津波に飲まれ多くの建物が流されてしまって、学校の校庭に仮設住宅が建てられていきました。

その後は中学、高校といわゆる傾聴ボランティアのようなものに定期的に参加していました。当時の経験から、今も国内で何かしらの災害が起きると支援活動に携わりたい気持ちが芽生える一方で、ともに生死を分ける体験をした家族からは、また危険な目に遭ってしまうのではないかと止められてしまいます。

普段からできることとして発災後に瓦礫の撤去や行方不明者の捜索活動などで活躍した防水ウェアや丈夫なブーツなどを、アウトドアをしないお客様にもせめて一つは持っていて欲しいと、接客を通して大切さを伝えています。もし会社を通して間接的に支援活動に携われる枠組みなどがあればぜひ参加したいと思います。」

佐藤さん以外にも様々な事情で個人的な活動が難しいという声がありましたが、ボランティア活動や社会貢献に意欲的な個々の想いに、企業としてどのようなサポートができるのかを考える必要があるかもしれません。

アウトドア製品と防災の親和性

レイヤリングの知識とアイテムの有効性

ここから、ゴールドウインも多く取り扱っているアウトドアウェアやギア(以下、アウトドアギア)と防災について考えていきます。

近年のキャンプブームもあり、アウトドアギアと防災の親和性は様々なメディアやイベントなどでも紹介されています。今回の社内アンケートでも、86%の社員が「アウトドア製品やアクティビティで培ったスキル、知識を災害時に有効活用できると思う」と回答していました。

2018年の9月に発生した震度6強の胆振東部地震で、実際に被災したカンタベリー事業部の谷口信孝さんに話を伺います。

谷口信孝さん/カンタベリー事業部
防寒着や寝袋の用意も必要ですが、登山のレイヤリングの知識は、季節を問わず効果を発揮できそうです。

「当時、ゴールドウインの札幌営業所にいて、札幌市内の自宅で被災しました。2日間電気が通らず、アパートの大家さんや近所の方々と助け合いながら生活しました。登山に行き山頂でコーヒーを飲むことが好きだったこともあって、その経験からヘッドランプやガズバーナーを発災直後から活用できていました。

地震があったのが9月で、札幌では比較的に過ごしやすい季節だからまだ良かったですが、停電していたのでガス給湯が使えずお風呂に入れなくなりました。このようなライフラインが止まる状況下では結果として電気を使う灯油ファンヒーターなども使えなくなるので、北海道の真冬であればもっと多くの死者が出たかもしれません。

インフラやライフラインの状況を考えると、防寒着や寝袋の用意も必要ですが、登山のレイヤリングの知識は、季節を問わず効果を発揮できそうです。避難所での生活も、レイヤリングによって少しでも不快感やストレスを軽減できると思います。」

ザ・ノースフェイスのロングセラーモデルを防災向けにアップデート

谷口さんと同じく胆振東部地震で被災経験や、関わっていた店舗の近隣での豪雨被害などを経て、ザ・ノース・フェイスのロングセラーモデルであるダッフルバッグを防災向けに仕様をアップデートし提案した、東日本販売部の米山輝さんにも話を伺いました。

米山輝さん/東日本販売部エリア長
いざ自分で防災バッグを用意しようと思うと、カッコいいものが少ない

「東日本大震災や熊本・大分地震を経て世の中の意識が変わり、防災バッグが日常の中の必須アイテムになりつつあるということを感じていて、当時店長をしていたTHE NORTH FACE STANDARDで、防災バッグの提案を検討していました。

けれど、大震災から時が経つにつれ防災意識が低下していく中で企画が何回か止まってしまいました。2020年のコロナ禍、自宅で過ごす中で微弱な地震が頻発していたことから、いま大地震が起こったらどうなるんだろうと改めて想像して、”災害に対する準備”を自分ごととして本格的に考えたことがきっかけとなりました。

いざ自分で防災バッグを用意しようと思うと、カッコいいものが少ないなと。どうせ用意するなら普段から使えて、楽しめて、自宅に置いていてもデザインとして収まりが良いモノが欲しいなと思い、防災バッグの製作とアウトドアギアをキュレーションしたパッケージの企画が一気に進みました。」

ザ・ノースフェイスのロングセラーであるダッフルバッグを防災仕様にアップデートした「STD BC Duffle 42」
胆振東部地震での自身の被災経験や、THE NORTH FACE STANDARD の店舗もある広島の豪雨被害を実際に経験したスタッフの声、アドバイザーの意見をもとにキュレーションしたギア。
行政から提案されている防災備品はアウトドアギアで代用できるものが多く、親和性が高い

「実際の被災を経験し、知らない土地でほとんど荷物もない状態で過ごした数日間は、行き当たりばったりのイレギュラーな状況の連続でした。でもその経験は、普段楽しんでいるアウトドア・アクティビティと共通しており、実際に行政から提案されている防災備品はアウトドアギアで代用できるものが多く、親和性が高いことに気づいたんです。

この企画を通して、道具ももちろんそうですが、イレギュラーな状況に対処する知識や経験の重要性を実感しました。平時はなかなか感じづらいですが、身近にそれを疑似体験できるアウトドアはやはり災害対策として有用性があるので、アクティビティを通して楽しみながら防災を考えられるように啓蒙を続けていきたいです。」

THE NORTH FACE STANDARDでは、2024年7月に、新たに防災バッグのチェックリストもリリースしました。すでに用意のある防災バッグの中身を定期的に見直す、また新たに準備をする際に便利な、汎用性のあるアウトドアギアを織り交ぜた防災用品のベーシックな内容となっています。

ゴールドウインのこれまでとこれから

現状の体制と社員アンケートの結果を通じて、ゴールドウインの災害支援における現在地が見えてきました。

義援金や物品提供などのこれまでの支援実績は、企業から支援としてある一定の役割を果たしたものの、そのプロセスや結果を体系的に記録し、今後のよりよい支援に繋げていく仕組みはまだ整っていません。また、多くの社員が、自社のプロダクトや、アウトドアアクティビティで培ったスキルが災害時に有効であると考え、支援活動への意欲も高いものの、これらの特性が十分に発揮されているとも言えません。

個々の意欲と企業としての強みをどのように結びつけられるのか。そして、アウトドアを楽しむ社員が多いゴールドウインが、その特性を活かした支援活動を展開できるのか。それによって、被災地や被災者にとってより効果的で持続可能な支援に繋げられるのか。

自然や環境をフィールドとする企業のゴールドウインとして、災害支援のあり方を再検討するため、これらの問いに対するリサーチをしていきます。

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この記事の著者

Goldwin Inc.

上沢勇人

2019年入社。THE NORTH FACE STANDARDの販売員を経て、2023年よりマーケティング部所属。趣味はロングトレイルやバックパッキング。ここ2年ほどはトレイルランにハマり100mileの完走を目指してトレーニング中。

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