わたしたち、以外の“わたしたち”へ 01

人間が地球にとって必要な生命になるために

2025.04.23 Wed

みなさん、こんにちは。Goldwin Field Research Lab.の上沢です。

ただただ、しんどい登りを乗り越えた先の達成感とか、キャンプで友達とお酒を飲みながら語らう時間が楽しくて10年近く山に入り続けてきました。昨年11月にはベースキャンプまでですが、エベレストにも行ってきました(このリサーチは改めて記事にします)。

10代の頃は渋谷が居場所で、アウトドアとは無縁。自然や環境について考えることなんて、ほとんどありませんでした。

当時の自分は、いま思えば「自分がすべて」な感覚が強く、どこか個人主義的だった気がします。けれど、自然の中で過ごす時間を重ねるうちに、少しずつ気持ちに変化が生まれてきました。「この景色をいつまでも見ていたい」とか、「この場所を次の世代にも残したい」とか。

頭で考えたというより、自然とそんな気持ちが芽生えてきた感覚があります。

自然に触れることで、自然を守りたいと思うようになる

よく聞く言葉です。

でも、その「自然を大事にしたい」という感覚は、いったいどこから来たのでしょうか?
なぜ自然に触れることで、そう思うようになるのでしょうか?

それがなぜなのか、あらためて言葉にしようとすると、うまく浮かんできません。

私たちゴールドウインは、自然の中で遊ぶこと、楽しむことを応援し、そのためのウェアやギアを届けてきました。だからこそ、あらためて考えてみたいのです。私たちが愛する自然を、多くの人も大事に思うようになる“自然との関わり方”ってどんなものなんだろう、アウトドアに行くってどういうことなんだろう、と。

気候変動と自然観の関係性

山に通うなかで芽生えてきた「この場所を次の世代にも残したい」という思い。きっとそれは、アウトドアを楽しむ多くの人が感じたことのある感覚だと思います。

けれど、いま世界では気候変動という大きな問題によって、その願いが脅かされる状況が加速度的に進んでいます。世界中でさまざまな対策が進められているけれど、なかなか解決の糸口が見つからない。その背景には、もしかすると、そもそもの「自然との向き合い方」や「自然観」が関わっているのかもしれません。

現代の社会は、便利さや効率、経済成長を優先して発展してきました。その流れのなかで、自然は「資源」や「対象物」として扱われ、切り離された存在として距離を置かれてきた。でも、その考え方のままでは、自然環境の問題を根本から解決するのは難しい気がします。

そんなとき、ヒントになるかもしれないのが「アニミズム」という視点です。

アニミズムは、山や川、動物や植物だけでなく、石や道具、場所など、あらゆるものに“魂”や“精神性”を見出す考え方。つまり、自然のあらゆる存在が「ただのモノ」ではなく、そこに命や物語が宿っていると考える世界観です。

もちろん、都市で暮らす私たちがいきなりアニミズム的な感覚を持つのは簡単ではありません。自然と切り離された生活のなかでは、どうしても自然との距離ができてしまう。

でも、よく考えてみると、私たちはすでにアニミズム的な世界観に触れてきたはずです。たとえば、「風の谷のナウシカ」や「となりのトトロ」、「もののけ姫」など、ジブリ作品に登場する“心を持つ存在たち”。ああいう存在を、子どものころはごく自然に受け入れていたんじゃないでしょうか。風や森、動物や不思議な生き物たち。そこに命が宿る感覚は、特別なものではなく、むしろとても身近なものだったように思います。

遊びがひらく、連絡通路

けれど現実の社会では、いつしかその感覚が閉じてしまう。
自然は「管理される対象」となり、人間中心の世界観が当たり前になっている。
だからこそ、もう一度その感覚をひらくには、”遊び”が大きな鍵になると感じています。

思い返してみれば、子どもたちは”遊び”を通じて、自然と他者との関係をつくっていきます。それは人間の友だちかもしれないし、石や木、虫や動物といった非人間的存在かもしれない。”遊び”とは、そんなふうに「関係性を築くインターフェース」として機能する力を秘めているのです。

今回のリサーチ全体に通底している問いは「いかにして、私たち人間が自然の一部であることに気づけるのか?」というもの。
そして”遊び”という行為は、その気づきへの入り口になると信じています。

そのフィールドのひとつが、アウトドアアクティビティです。

ただし、これまでのアウトドア文化は「自然を楽しむ」「自然に挑戦する」といった視点が強かった。それはそれで素晴らしい体験だけど、気づかないうちに自然を“消費”する行為にもなり得る。もっと自然に対して、敬意や想像力を持つような遊び方はないだろうか。そんな問い直しが、今、必要かもしれません。

アニミズム的な感覚が少しずつ社会に広がれば、もしかすると自然との向き合い方そのものが変わっていく。その変化は、気候変動に立ち向かうための、新しい文化や価値観の土台になるかもしれません。

今回のリサーチでは、環境アクティビストの酒井功雄さんとともに、アニミズムを現代的に解釈しながら、都市やアウトドアのフィールドでそれをどう実践できるのかを探っていきます。専門家との対話やフィールドでの実験・観察を通じて、自然との新しい関係のつくり方を考えていきたいと思っています。

この取り組みが、誰かにとっての新しい気づきや、小さなきっかけになれば嬉しいです。

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この記事の著者

Goldwin Inc.

上沢勇人

2019年入社。THE NORTH FACE STANDARDのショップスタッフを経て、2023年よりマーケティング部所属。趣味はロングトレイルやバックパッキング。ここ2年ほどはトレイルランにハマり100mileの完走を目指してトレーニング中。

コラボレーター

酒井功雄

2001年、東京都出身。気候変動を文化的・思想的なアプローチで解決するために、「植民地主義の歴史」と微生物を中心に世界を捉えなおす思索を行なっているアクティビスト。日本・東アジアで脱植民地主義を考えるZINE「Decolonize Futures—複数形の未来を脱植民地化する」エディター。2019年2月に学生たちの気候ストライキ、”Fridays For Future Tokyo”に参加、2021年にはグラスゴーで開催されたCOP26に参加。2021年Forbes Japan 30 Under 30選出