Disaster and Outdoor Activities

#5 能登・輪島・珠洲で、私たちが見たもの - DAY 1 -

日本・石川県能登町/輪島市/珠洲市

2024.09.11 Wed

Research Thema

Disaster and Outdoor Activities

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はじめに

令和6年能登半島地震から5ヶ月、そしてこの『災害とアウトドア』をテーマにしたリサーチをはじめてから約3ヵ月とが経過した2024年5月28日~29日の2日間、私たちは石川県能登町にてデザイン会社を営みながらボランティア活動を続けてきた辻野実さんをガイド兼共同リサーチャーに迎え、今回の地震で最も被害の大きかった能登町、輪島市、珠洲市にてフィールドワークを行いました。

大手メディアでは報道されなくなったものの復興には程遠い被災地の姿、それでも自分たちでできることを探し自発的に活動する現地住民の方々、自身も被災者でありながら発災後最初に動き出す必要のあった市役所、そして行政と民間をつなぐ社会福祉協議会。

震災から5ヶ月が経過し県が”創造的復興”を標榜に掲げる中、様々な立場の視点から被災地の現状を伺い、それらを踏まえた上で私たちが企業として、またそこで働く人間としてできることは何かを考えます。

  • 辻野実

    1982年生まれ、鳳珠郡能登町(旧能都町)出身。高校卒業後、大阪の大学へ進学し、マーケティング会社に就職。2007年の能登半島沖地震を機に石川県に戻り、金沢市内の企業で4年間勤める。’12年1月、ウェブデザイナーとして独立。’16年、能登町の祭りや風土を映像・写真で紹介する「能登のワイルド」プロジェクトを立ち上げ、様々なイベントなども企画。’18年4月、デザイン会社『SCARAMANGA(スカラマンガ)』を法人化。震災復興にむけ精力的に活動。

本リサーチで訪れた場所

輪島市随一の観光名所「朝市通り」

輪島市・朝市通り
8世代にわたり輪島で漆に関わり続けてきた漆芸家・桐本滉平さん
桐本滉平さん個人の工房兼自宅

最初に訪れた場所は、能登空港から車で30分ほどにある輪島市・朝市通り。

日本三大朝市の一つで1,000年以上の歴史を持つ輪島市随一の観光名所であり、街のシンボルともされた場所でしたが、地震直後に発生した大規模火災により200棟以上が焼け、およそ5万平方メートルが焼失しました。

我々が訪れた5月28日の段階では、建物の所有者全員の同意を集められず、公費解体の申請ができないという理由から作業が進められておらず、被災地の痛ましい姿がそのままに残されていました。

以前取材させていただいた漆芸家の桐本滉平さんもこの地を自宅兼工房にされていましたが、残念なことに全焼。現在は、災害用コンテナを借りて仮工房にされています。

  • ※後日導入された緩和策により6月5日から公費による解体や撤去が本格的にはじまった。約280棟のうち、申請のあった100棟余りが対象となる。

輪島市の食を支える「輪島セントラルキッチン」

輪島セントラルキッチン

輪島市のフレンチレストラン「ラトリエ・ドゥ・ノト」のシェフ・池端隼也さんを中心に、地元の居酒屋やラーメン店の料理人たちが集い結成された「輪島セントラルキッチン」は、自然災害の発生に際して食事を提供するための非営利非政府組織「ワールド・セントラル・キッチン」から鍋や包丁などの調理器具や食材のサポートを受け、発災直後の1月5日から15日までほぼ毎日1600食を提供してきました。

2月1日からは断水が続く輪島市から正式に依頼を受け、1食あたり4~500円で避難所や消防署、病院、市役所などに向けて食事の提供を行うことで、ボランティアではなく料理人としての賃金を賄っています。被災者の食を支えるとともに、店を失った料理人たちが商いを継続させられるように運営されているこのチームは、現在、そして未来の輪島市の食を支える重要な存在です。

5月以降、店舗が復旧したメンバーは徐々に自身の店へと戻り、残ったメンバーは6月まで輪島セントラルキッチンとしての活動を継続しました。

  • 「輪島セントラルキッチン」から「mebuki-芽吹-」へ

    輪島セントラルキッチンは6月末で一旦活動を終了。7月からは、「この街にあかりをともし、輪島に住んでいる方々、工事などで来られている方々、皆んなが笑顔になれる飲食店を作る」という次のフェーズに移行し、クラウドファンティングでの支援を得て「mebuki-芽吹-」をオープンさせている。

能登の伝統を次へと繋ぐ「民宿ふらっと(のとサポ)」

民宿「ふらっと」

2019年にTBS「情熱大陸」でも取り上げられたオーストラリア人シェフのベンジャミン・フラットさんと能登出身の妻・船下智香子さんが営む民宿「ふらっと」は、能登の伝統的な食材や野菜、魚を使った料理を求め、国内だけでなく海外からも宿泊者が訪れる名店。

発災直後に民宿としての営業を休止し、支援団体「のとサポ」を立ち上げて炊き出しなどを行う中、被害を受けた住宅や建物に保管されていた輪島塗がやむをえず捨てられていく状況を見て、それらを預かり、クリーニングを行った後、新たな持ち主に引き継ぐ取り組みを進めています。

民宿近くの廃校を作業場に、行き場を失った輪島塗を集め、大型の洗浄機で洗い、一つ一つ丁寧に磨き上げ、表面を保護するための紙に包み、そして木箱へと戻していきます。私たちが参加させていただいた日にも、活動に共感した地元の主婦たちや、NPOのメンバーらが集って作業に従事し、終始和やかに作業が行われ、近隣住民が支え合うためのコミュニケーションの場としても機能しているように感じられました。

輪島塗は能登の伝統であり、アイデンティティの一つ。震災により失われてしまう可能性があった文化を、次の世代に引き継いでいくための重要な取り組みです。

民宿「ふらっと」を営むベンジャミン・フラットさん・智香子さんご夫妻

民宿ふらっと
〒927-0443
石川県鳳珠郡能登町矢波27-26-3
Tel: 0768-62-1900
https://flatt.jp/

 ”能登らしい復興”を目指す「のと復耕ラボ ボランティアBASE三井」

のと復耕ラボ ボランティアBASE三井

”能登らしい復興”を目指す団体として、ボランティアの募集、受け入れ、滞在拠点の提供、そしてがれきの撤去や思い出品の発掘など、行政や社協が拾い切れない被災者のニーズを独自で汲み取りながら活動を行なっている「のと復耕ラボ ボランティアBASE三井」。

施設内には、宿泊用のテントだけでなく、テント浴室、テントサウナ、そして室内には囲炉裏までがあり、滞在者が快適に過ごせるような工夫や雰囲気づくりが随所に見られます。

私たちも実際に2日間滞在させていただき、想像以上の快適さと居心地の良さがあり、何よりラボのメンバーや参加しているボランティアの方々が明るく笑顔で作業に向かう姿が印象的でした。

のと復耕ラボを主宰する山本さん(左)と尾垣さん(右)

のと復耕ラボ ボランティアBASE三井
〒929-2378.
石川県輪島市三井町小泉 漆原14-2
Tel: 0768-26-1181

フィールドワーク初日は輪島市街の視察、「輪島セントラルキッチン」、「民宿ふらっと(のとサポ)」への訪問を行い、夜は「のと復耕ラボ」のメンバーの皆様と食事をご一緒しながらの座談会を開催していただきました。

お話を伺う中で、ボランティアを通して地域と触れ合うことでその土地のファンになってもらいたいという想いがありながら、県が策定したボランティア規則の制約によりそれが実現できていないこと、日々の作業を行う上で生じる現場の声を行政に通すルートや機会がないこと、そして”創造的復興”という言葉が現実と伴っていないことなど、様々な課題が挙げられました。

ワクワクする能登の未来を作っていくためには、震災前にやってきたことをただやり直すだけでは実現できません。能登を盛り上げるためのプレーヤーを増やすために、まずは自分たちが率先してでできることをやっていく。解体され新たに家や建物が立ち並んだ後の能登がどんな姿だったら自分たちが愛せるか、それを想像しながら、少しずつ復興に向かいたいと考えています。

そんな山本さんの覚悟と姿勢に胸を打たれながら、初日のフィールドワークを終了しました。

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この記事の著者

Goldwin Inc.

神田容佐

ウェブマガジンの編集/ライターを経て2017年入社。総合企画本部マーケティング部所属。DJ/音楽プロデューサーとしても15年以上のキャリアを持つ。

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